2021年4月20日 AEST現在

主に馬や動物たちの腸内寄生虫の治療に使われていた薬が、なぜ今、COVID-19で人間を治療している医師たちの関心を引くようになっているのか?世界中で錯綜するイベルメクチンをめぐる議論や研究の経過状況を調べてみたいと思います。



目次

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1.イベルメクチンとは?
2.なぜイベルメクチンがCOVIDの治療薬として関心を引くのでしょうか?
3.なぜイベルメクチンが議論になっているのか?
4.イベルメクチン使用の働きかけで錯綜する議論
5.なぜ各国の機関はイベルメクチンを勧められないのか?
6.結論

欧州医薬品庁米国国立衛生研究所は、これまで有望視されていた治療法の1つである抗寄生虫薬のイベルメクチンを、COVID-19患者の日常的な管理に使用することを推奨しないと最近発表しました。

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こうした決定にもかかわらず、ソーシャルメディアやWhatsAppグループでは、イベルメクチンを支持する声が上がっており、「わざとイベルメクチンを使わないように抑止しているのではないか?」という憶測や噂が飛び交っています。

また、イベルメクチンを「新しいヒドロキシクロロキン」と呼ぶ人もいます。これは以前、オンラインで多くの支持を得た薬品であったものの、試験によって、結果的にCOVID-19には効果がないことが判明した治療法にちなんだものです。

では、イベルメクチンとは何なのか、そしてなぜ国の機関はイベルメクチンを使用しないと決めたのかを調べていきます。

イベルメクチンとは?

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イベルメクチンは、北里大学特別栄誉教授の大村智博士が1974年、静岡県・川奈のゴルフ場脇の林から採取された土壌サンプル中の微生物が生み出す化合物(誘導体)「アベルメクチン」をもとに、アメリカの製薬会社のメルク社との共同研究で、家畜やペットの寄生虫、回虫などの治療薬として1981年に「イベルメクチン」として開発されました。

イベルメクチンとその誘導体が寄生虫感染症の治療に有効であることがわかり、人と動物の医学に大きな恩恵と変化をもたらしことでイベルメクチンは世界中に使用が広がりました。臨床現場では、副作用がほとんど報告されないことも評価を一層高めました。発見者であるウィリアム・C・キャンベルと江村聡はノーベル賞を受賞しました。

現在、人間ではアフリカ・中南米・中東などの河川流域で蔓延(まんえん)していた盲目症などの原因となる特定の回虫感染症の治療に錠剤が処方されています。また、炎症性の皮膚疾患である丘疹性、酒さの治療にクリームとして使用されることもあります。

なぜイベルメクチンがCOVIDの治療薬として関心を引くのでしょうか?

2020年初頭、イベルメクチンがCOVID-19の原因であるSARS-CoV-2ウイルスの複製を実験室環境下で抑制するということが示された論文が(他の科学者による査読が行われる前に)公開されました。この研究は、過去50年間に行われた多くの研究の1つで、抗寄生虫薬が抗ウイルス剤としても使用できる可能性を示しています。

この薬がコロナウイルスの複製を防ぐ2つの重要な作用があると見られているのには、まず、ウイルスが細胞の自然な抗ウイルス反応を抑制するのを防ぐことができるようです。次に、ウイルスの表面にある「スパイク」と呼ばれるタンパク質が、ウイルスが細胞に侵入するための受容体に結合するのを防ぐことができることです。

またイベルメクチンの酒さへの有効性から明らかになった抗炎症作用と合わせて、大きな炎症を引き起こすウイルス性疾患への有効性を示唆していると考えられるとのことです。

この最初の発見は、特にラテンアメリカにおいて、COVID-19の治療にイベルメクチンを使用することを推奨する多くの根拠となりましたが、後に撤回されました。

なぜイベルメクチンが議論になっているのか?

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それ以来、COVID-19の治療薬としてのイベルメクチンに関する数多くの研究が行われてきました。

2020年末、インドの研究グループは、COVID-19患者の追加治療としてイベルメクチンを用いた4つの小規模な研究の結果をまとめることができました。このレビューでは、他の治療法に加えてイベルメクチンの投与を受けた患者の生存率が統計的に有意に改善したことが示されました。

しかし、この研究者らのエビデンスの質は低く、この知見を慎重に扱うべきであると明確に述べています。複数の小規模な研究のレビューではよくあることですが、この論文では、イベルメクチンが本当に臨床的に有効であるかどうかを判断するためには、さらなる試験が必要であることを示唆しているのです。

イベルメクチン使用の働きかけで錯綜する議論

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その後、イベルメクチンの使用を働きかける医師や研究者のグループであるフロントラインCOVID-19クリティカルケアアライアンス「Front Line COVID-19 Critical Care Alliance」の論文を巡ってさらに論争が勃発しました。

この論文は、COVID-19患者に対するイベルメクチンの効果に関する複数の小規模な研究をまとめたもので、2021年1月にFrontiers in Pharmacology誌に暫定的に掲載が認められましたが、3月には却下され、同誌のウェブサイトからも削除されました。同誌の編集者は、論文のエビデンスの水準が不十分であり、この著者が独自にイベルメクチンベースの治療を不適切に宣伝していると述べました。

さらに2021年3月には、より大規模な無作為化臨床試験が1件発表されました。これには軽度のCOVID-19を有する成人の症状の持続時間に対するイベルメクチンの効果は示せませんでした。

この研究者らは、今回の結果はCOVID-19の患者へのイベルメクチンの使用を支持できるものではないとしながらも、本剤に他の利点があるかどうかを明確に判断するためには、より大規模な試験がまだ必要であることを再度強調しました。

なぜ各国の機関はイベルメクチンを勧められないのか?

他のいくつかの研究はイベルメクチンの利点を示しているように見えましたが、実際、多くはそうではありませんでした。これらは国立衛生研究所によって要約され、サンプルサイズが小さいことによる研究計画の問題から生じる深刻な制限を示しています。

国立衛生研究所と欧州医薬品庁の両方が、これらの現在の研究に基づいて、COVID-19の治療におけるイベルメクチンの使用を支持するためには証拠が現在不十分であると判断しました。

現在、さらに多くの研究が進行中です。COVID-19の病気の進行を防ぐために、イベルメクチン、メトホルミン(抗糖尿病薬)、フルボキサミン(抗うつ薬)の効果を調べる大規模多施設試験が2月に開始されました。

結論

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大規模な試験によるCOVID-19治療におけるイベルメクチンの使用を支持するための証拠が不十分であるため、各国の機関はイベルメクチンをコロナウイルス治療薬として正式には承認できない現状が見受けられます。

したがって、イベルメクチンがCOVID-19の治療に絶対的に適さないと結論づけるのも早計であることがうかがえます。しかしながら、現在の少ないエビデンスに基づくと、COVID-19の治療におけるイベルメクチンの使用としては現在、推奨できないものにいたります。

引用HPːhttps://theconversation.com/ivermectin-why-a-potential-covid-treatment-isnt-recommended-for-use-157904?fbclid=IwAR3WjnlqkjBMOVsYv7bDM56yVK04IiMI7KE7tChAiJNIhbX-aHCFb3ZOM50